「まちづくり」とは何かを考えたとき、大切なのは「もの」ではなくて「ひと」だと思います。
そう語るのは、岐阜県高山市、斐太高校3年の鈴木日菜子(すずきひなこ)さん。2016年8月に飛騨の中高生による飛騨の中高生のためのフリーペーパー「HIDAKKO PROJECT.」を立ち上げ、17年12月には、学生団体総選挙にノミネート、今年7月にはNHK「世界ふれあい街歩き」で紹介されるなど、飛騨高山の魅力を全力で発信し続ける鈴木日菜子(すずきひなこ)さんに、飛騨高山の「いいところ」や地域の魅力を発信することの大切さを語っていただきました。
蓑田:「HIDAKKO PROJECT.」を始めようと思ったきっかけはどのようなものでしたか?
日菜子さん:私がヒダッコを始めようと思ったきっかけの1つとなったのが、2016年4月の「22歳、飛騨高山への想いを聞いてください」というイベントで、そのイベントで知り合った大人や先輩の協力もあり、始めようと思いました。
蓑田:そこで知り合った大人はどんなことをされている人が多かったのですか?
日菜子さん:色々なことをしている人がいたのですが、そのイベントを主催していた、高山出身の岐阜大学の学生は、最年少高山市長を目指していて邁進されています。そのイベントの会場が、co-ba高山(※1)というコワーキングスペースで、プロジェクト開始当初はそこを借りて活動をしていました。
NPO法人まちスポ(※2)というのがあって、地元を盛り上げるために様々な活動や取り組みをしています。今でも作業をする上で貸してもらっています。また、丸山さんという大学生が『GIFT』というフリーペーパーを大学で作っていて、ヒダッコをやる上で、そのノウハウを教えてもらいました。
飛騨の中高生による中高生のためのフリーペーパー
蓑田:ヒダッコは主に誰に向けて発信しているのですか?
日菜子さん:基本的には飛騨の学生が飛騨の学生の目線で飛騨の学生に向けて飛騨の魅力を伝えている、というところがヒダッコの特徴です
蓑田:地元を盛り上げようとしている団体は他の地方でもありますが、高校生が自ら現場へ行き、取材し、フリーペーパーにして発信している団体はあまりないと思います。なぜフリーペーパーを作って発信しようと思ったのですか?
日菜子さん:まず、ヒダッコを立ち上げるにあたって、私たちも飛騨の事をよく知らなかったので、まず飛騨について知らないと、どんなことをしてもあんまり説得力がないと思い、フリーペーパーにして、学校で配布物として配ってもらえれば、必ず飛騨の学生の手に届くし、私たちも取材をしながら飛騨のことを知れるし、同時に多くのことを発信できる。
蓑田:実際読んでくれたのですか?
日菜子さん:学校でもみんなヒダッコを読んでくれて、本当にダイレクトに思いを伝えられる手段だなと思いました。
蓑田:ヒダッコではどうやってメンバーを集めていたのですか?
日菜子さん:今の2年生、年下の人達がすごく積極的に活動してくれていて、興味がありそうな知り合いにひたすらラインで声かけてくれて。
一号を作った時は4人くらいしかメンバーがいなかったのに、2号を作るタイミングで説明会を開いて、そうしたら10人くらい(説明会に)来てくれて、説明会に参加した人のほぼ全員がヒダッコに入ってくれて、一気にメンバーが増えて4人から14人になったんです。
最初は、一緒に協力してくれる人は集まらないと思っていたけど、実際やってみたら、一緒に協力してくれる人がたくさんいて、そういう人達がヒダッコをきっかけに、さらに新たなアクションを起こそうと思っていて、ヒダッコが、夢とかアクションを起こす1つのきっかけや気づきになれているなと感じています。
行動を起こせば社会は変わる
蓑田:ヒダッコを立ち上げてからの反響はどうでしたか?
日菜子さん:反響はありました。新聞に取材してくださったり、地元の大人も協力してくださって、協賛もあんまり断られることはなかったです。
学校も最初は難色を示すと思っていたのですが、実際ヒダッコのことを話しに行ったら、校長先生が気に入ってくださって、毎回発行すると、校長先生が100部くらい欲しいっていわれるから、100部差し上げると、来るお客さんに配ってくださっていて(笑)
蓑田:高山には地元に愛着を持っている人が多いのですね。
日菜子さん:地元を好きな大人が多いと思います。子どももそれにつられてだんだん興味を持ってくれる。
久しぶりに会った他の学校の友達にも、「フリーペーパー見たよ」とか「ヒダッコに載ってたこの店行きたい」など声をかけてくれました。
実際、協賛してくださった企業とかに行ってみると、「ヒダッコ見て来てくれた人いるよ〜」と言ってもらい、反響の大きさを実感しました。
特に学生団体総選挙(※3)のフリーペーパー部門でグランプリを受賞した時の反響は大きかったです。
私は今まであまり目立つタイプではなかったのですが、色々声をかけてもらったり、テレビに出たりして、「みてるよ〜」「すごいね〜」などと言ってくれる人が増えてきて、これだけ影響を与えることができているのだと実感しました。
蓑田:行動すれば変わる。ということですね。
日菜子さん:動けば変わる。本当にそう思いました。
先日私が主催した「ひだ!高校生会議」(※4)でも、市の人に協力していただいたし、来年から、私たちヒダッコの活動を受けて、市に高校生関係の事業部が新設されるらしい。このヒダッコの活動が、遂には市を動かすまでになったのか…という感じです。
蓑田:僕も一時期、地域の学生団体に関わっていた時期があったのですが、結局失敗に終わっちゃったりして…
日菜子さん:でも、こんな田舎で、今まで誰もヒダッコのような活動をしてこなかった地域だから、私はこうなれているっていうのはあると思います(笑)
東京とかだったら、高校生が動くってレアではないと思うし、高山はそういう人が全くいないから目立って、周りの人が応援してくれていたというのはあるかもしれないですね。
蓑田:そういう意味では、co-baのような場所って大切ですよね。そういった場所から、地域を変える活動がどんどん広がっていくのですね。
日菜子さん:そこにいれば面白い人がいるという場所が大切だと思います。高校生だけが集まれる場所があっても面白いと思う。
第三回学生団体総選挙のフリーペーパー部門でグランプリを受賞
8月11日に開催された「第1回ひだ!高校生会議」
地域の繋がりから生まれる郷土愛
蓑田:実際、鈴木さんの住む地域は地元のつながりはあるのですか?
日菜子さん:ありますね。私の住む地域の町内会では、毎年町内会のバレーボール大会があって、私たちは、バレーボール大会が終わったら、いつも地域のみんなでバーベキューするんですよ。
蓑田:それはすごい!若い人もいるんですか??
日菜子さん:若い人の方が多いかな。
蓑田:同じ高校とかではなくて??
日菜子さん:同じ高校とかでもないです。他の高校の子もいたり、親くらいの世代から幼稚園の子までみんなで集まります。それで遊んだりとか、親は飲み会みたいな感じになって、近所だからずっとできるし、すごく楽しいです。
蓑田:それはめっちゃ羨ましいです。僕の家のある地域にも一応町内会があるんですけど、そこは年配の方だけの溜まり場になっていて、若い人は入りにくい雰囲気があって…
日菜子さん:でも私も来年から大学進学でこのまちを離れるので、それができなくなるのがすごく寂しいです。
蓑田:そういった地域のつながりがあるからこそ、地域への愛着が生まれたり、問題点が見えて来るような気がしてきます。だから飛騨の人たちは地元愛が強いのかもしれないですね。
日菜子さん:逆に地域のつながりがないことのほうがめっちゃ驚きです。小・中学生のうちは、登下校をしていると、朝も夜も見守り隊の人とかまちに歩いている人、犬の散歩をしている人とかが声かけてくれるんですよ。そういうのが小・中学校のうちから普通だったから、それが普通ではないのかもしれないってことに最近やっと気付き始めて…
飛騨高山の魅力は「人の温かさ」
蓑田:高山の良いところ、問題点は?
日菜子さん:高山の良いところは、人が温かいところだと思います。問題点は色々あるけど、視野が狭くて保守的なところだと思います。人と人のつながりが強いが故に、人の目を気にしやすい。「こうでなければいけない」っていう固定観念がある。
だからこそ、ヒダッコを通して、全国に色々な人がいるということを高山に伝えていきたいと思っていて、周りの高山の友達とかにも「世界一周している子がいて」などと話すと、興味を示してくれる。「ヒダッコで高山を変えたい」という思いもあります。
もう一つ問題だと思っているのが、高山の街にあるお店でも、観光客をターゲットにした高山とは関係無い京都で見たお店があったり、めっちゃ高かったりする店が多くあって…
蓑田:多くの観光地は同じ悩みを抱えているところは多いと思います。どうしても観光地化すると、その地に縁もゆかりもないのに、便乗して儲けようとする店が出てくる。そうするとまちの個性を失うことにもつながってしまいますよね。
日菜子さん:このままでは、日本の観光ブームが終わって日本の観光客が少なくなったら高山も観光客が減るのではないかと思ってしまいます。飛騨ならではの良さってたくさんあるから、それをもっと伝えていく必要があると思う。
例えば飛騨牛とか、一般的に有名な飛騨の魅力は、たくさんあるけど、自分たちにとっての魅力とはちょっとちがうと思っていて。飛騨という場所を知って、飛騨と向き合う中で、飛騨の魅力は、「人が温かい」ところにあると気づいたんです。
一般的に言われている地元の魅力ではなくて、自分が思う地元の魅力を見つけに行く必要があると思っています。
蓑田: 政府は口先では地方創生だと言っていますが、「この地元にしかないもの」をPRしていかないと本当の地方創生にはつながらないと思います。
日菜子さん:でも、大切なのは「もの」ではないと思うんですよ。大切なのは「ひと」だと思います。ひとの温かさとかは、そこに行かなければ体験できないものだから、その人の温かさをもっと体感できるものがあればいいと思っています。
蓑田:確かにものってどこにいてもアマゾンで手に入れられますからね…
飛騨牛もアマゾンで買えるし(笑)
日菜子さん:だからヒダッコでは「ひと」をメインに紹介しています。普段飛騨の高校生が関わっているのは、学校の先生か、塾の先生くらいしか周りにいないけど、もっとこんな面白い活動している大人がいるっていうことを知ってもらいたい。
ヒトが変わればマチも変わる。マチが変われば日本も変わる。
蓑田:大学卒業後、飛騨に戻りたいと考えていますか?
日菜子さん:YESかNOでいったらYESとは言えない。でも、飛騨に住まなくても、飛騨でこういった活動をすることは決めていて、色々な地域で、何かやってみたいけどきっかけがなくて何もできないような子たちが、自分のやりたいことをチャレンジしたり、地元愛を形にするという、「地元愛×チャレンジ」という現象が広がっていくことが、理想のまちづくりにつながると思っています。人から変えるまちづくりを全国でしていきたいと思っています。
蓑田:最後に、地域の魅力を知りたい、発信したいと思っている人たちへ一言。
日菜子さん:とりあえずチャレンジしてみてほしい、行動してみてほしい、と思っています。「地域を盛り上げたい」という思いはあっても、心の中で考えているだけでは、結局何も変わらないので、まずは地域の魅力を知るっていう小さなアクションでもいいからやってみる。チャレンジしてみると、失敗することもあるかもしれないけど、そこから学ぶこともあるから、結局は何事も失敗ではないと思う。やらなかった時って、「やってみればよかった」という後悔しか生まれないけど、行動してみると、たとえ失敗したとしても、「ああすればよかった」「こうすればよかった」というように、いろんな学びを得られるし、そこで同じような仲間とか、同じような思いを持った人が見つかるから、まずは、アクションを起こしてみることが一番大切だと思っています。せっかくそういった思いがある人たちなら、絶対小さいことでもいいから形にしてみてほしい。思ったことを形にできる人が増えていけば、その街も変わるし、そういう街が増えていったら、日本も変わると思います。
蓑田:ありがとうございました。ヒダッコのような活動が全国に広まっていくことは大切ですよね。
日菜子さん:もっと仲間を増やしたいですね。
※1 全国に広がる会員制シェアードワークプレイス。飛騨高山のムーブメントを創造・発信する基地として2015年4月に高山市宮川沿いに開業。
※2 市民・NPOの交流や様々な団体・企業の連携を図る、情報発信スポット。
※3 全国各地の学生団体などを表彰するコンテスト。HIDAKKO PROJECTは第4回学生団体総選挙のフリーペーパー部門でグランプリを受賞。
※4 鈴木日菜子さん自身が主催した高校生会議。2018年8月11日に飛騨高山まちの博物館にて開催され、飛騨の高校生が飛騨の将来について熱く議論を交わした。
「HIDAKKO PROJECT.」連絡先
この記事を書いた人・取材した人
蓑田道(みのだたお)東京都出身・在住の高校2年生。
NAGOYAPRESS創設者。小学生の時に名古屋に憧れるようになる。趣味は東海地方。
将来の夢は東海地方の地域活性・まちづくりに携わる仕事に就くこと。
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